ウォンバットの繁殖に関してできるだけ正確な知識を得たいと考えて,細々と手当たり次第に調べてきた情報をまとめておきます。

Reproduction誌に掲載された論文(Hogan et al. 2013)から

L. A. Hogan らによる2013年の論文では,コモンウォンバットとミナミケバナウォンバットの繁殖に関する情報をまとめつつ,人工繁殖技術の確立,ひいては絶滅寸前のキタケバナウォンバットの人工繁殖につながる研究の現状を報告しています。以下断りのない限り,当該論文から個人的に興味をひかれる部分を箇条書き程度に要約・翻訳しています。専門用語の訳出には細心の注意を払っていますが,より適切な訳例がある可能性があります。

ウォンバットの繁殖について分かっていること

  • 妊娠期間は30~33日で,発情周期より短い。隔年で一子儲けることができる。(注:他文献では毎年妊娠できるとするものもある。生殖能力的には通年妊娠可能だが,子供の親離れにかかる期間を含めて考慮すると隔年で一子という報告内容になるものと思われる。)
  • 発情周期は1979年の研究で33日とされたが,その後2000年代の5件の研究はいずれも50日前後で一致している。(翻訳者注: Peters & Rose (1979)では細胞検査により発情周期を33日とし,前発情期4~5日+発情15時間+後発情期4~5週と報告した。但し細胞検査は採取する深さが一貫せず不正確とも指摘される。)
  • 年間降雨量と獲得できる食べ物の量がその年の繁殖可能性に強く影響する。
  • 多発情性・自発(周期)排卵・一雄多雌(翻訳者注:一頭のオスが同時に複数頭のメスを囲い込むというような意味ではないと考えられる。原文はmale/female polygyny)がウォンバットの繁殖戦略である。
  • ミナミケバナと比べるとコモンでは季節による繁殖率の偏りは小さく,一部は年間を通じて繁殖している。
  • 高緯度になるほど交尾が遅い時期にずれる。ビクトリア州北部で3~6月,南部で6~7月,ニューサウスウェールズ州の高地で12月~3月に出産のピークが見られる。ビクトリア州東部とタスマニア州では年間を通じて出産が見られる。
  • オスは季節によって睾丸など生殖腺のサイズに変化が見られたとの報告もあるが,繁殖のパターンには季節による変化は見られないということで一致している。
  • メスは繁殖期に少なくとも2~3回の発情周期がある(多発情性)。1回の発情周期につき,黄体期に1回のプロゲステロン黄体ホルモンの一種)分泌のピークがある。このピークは発情の17~18日後である。エストラジオール卵胞ホルモンの一種)分泌のピークは黄体期の始まる3~8日前に見られる。
  • ウォンバットは自発排卵動物である。すなわち交尾の有無に関係なく周期が来れば排卵する。
  • 体重と発情周期の長さには正の相関がある。すなわち大きなウォンバットのメスほど発情のサイクルが長い。
  • ウォンバットのメスが「(性的に成熟して)繁殖可能かどうか」を生理的に判断することはできる(育児嚢の深さ・広がり・壁の厚み・清潔さ・湿り気,乳首の長さによる)。
  • ウォンバットのメスが「発情中かどうか」を生理的に判断する方法は確立されていない。細胞検査,育児嚢や生殖腺の形態観察,検温のいずれによっても,発情周期の長さ/黄体期・卵胞期のいずれにあるか/発情のタイミングを正確に決定することはできない。(翻訳者注:Peters & Rose (1979)は泌尿生殖器が湿って張ると報告したが,後の研究では何の変化も見られないとの報告もある。)
  • ウォンバットの発情は15時間と報告されている。
  • 発情の行動的特徴はいくつか報告されている。非常に活発(歩き回る)で攻撃的になり,オスの気を引くために誘引行動と呼ばれる一連の行動をする。1.つっつき(鼻→鼻,鼻→横腹,横腹→横腹などのパターン)2.尻見せ(泌尿生殖器の部分をオスに示す)3.誇示行動(オスの目の前で穴を掘る,排尿する)。これらの行動が発情を示すものであると断定するには至らないが,可能性は非常に高いといえる。
  • 求愛から交尾までの行動は1.探り,2.誘引,3.追いかけ,4.拘束,5.交尾,6.回復の6段階に分けることができ,コモンとミナミケバナで共通である。このほかに両種に共通こととして,交尾前の長時間の求愛行動,交尾後の警戒,交尾に先立ってオスが匂いを嗅ぎまわる・誇示行動をする・追いかけるといった様子が高い水準で観察されること,多くの交尾が夜間に行われること,囲われた場所で行われることなどが挙げられる。

ウォンバットの繁殖研究の現状と今後

  • 歴史的に飼育下のウォンバットの繁殖は実例が少ない。
  • 個体数を維持できる繁殖プログラムは確立されていない。第二世代繁殖の例は未だかつてない。
  • オーストラリアの野生外のウォンバット個体数は年平均2.5増・7.3減(死亡・輸出・リリースによる)で不安定。野生下で産まれた個体の捕獲増員のみでかろうじて維持されている。
  • 人工繁殖の不首尾の主因は繁殖の生理・行動に関する知識に欠くことと,飼育管理の未熟さにあると考えられている。
  • コモン・ミナミケバナの飼育下での繁殖プログラム確立はウォンバットの保全だけでなく,キタケバナの繁殖支援技術の開発へよいモデルとなるだろう。
  • 近年発情周期とオスの季節性・繁殖力に関して研究が進み,精子保存と発情周期の特定・コントロールも試みられている。
  • 短い発情期間と夜間の交尾行動のため,交尾の成否判断や人工授精のための発情期の特定は非常に困難である。信頼度の高い発情期の特定のためには,試情雄と24時間監視のビデオ調査が不可欠である。
  • オーストラリアのいくつかの動物園では積極的な繁殖プログラムを実施しているが,信頼できる持続可能な繁殖プログラムはいまだ確立されていない。交尾は頻繁に確認されるが,出産に至るケースが少なく,繁殖力の低さまたは飼育環境の拙さが原因と考えられている。
  • 繁殖の失敗の原因として,ペアの相性の問題,体調の悪さ,餌の問題,メスがオスより強い場合,不適切な繁殖施設(囲われたトンネルがないなど),広さが足りない,不妊,人間に育てられたためウォンバット固有の繁殖行動を親から学んでいない可能性,などが考えられている。

Breeding Common Wombats by Cameron Lane & Michele Barnesから

翻訳作業中

上記以外の文献から

高齢のウォンバットの交配・出産の記録

  • ♂16歳?×♀16歳?:ドイツ・ハノーファー動物園で,1977年に推定3歳とされたペアが,1982年・1989年に続いて1990年に繁殖に成功している。(Boer, 1998)
  • ♂15歳×♀4.5歳:オーストラリア・ドリームワールドで,適齢でないかと思われたものの繁殖に取り組んだ結果,2005年に15歳のオスが交配に成功した。(Lane & Barnes)
  • ♂22歳×♀5歳:ドイツ・デュイスブルク動物園で,今年(2018年)生まれてセンセーショナルな話題をさらった Apari 君。父親が22歳の高齢であったことも記憶に新しい。母親の Tinsel は2015年に2歳とされているので,2018年には5歳ということになる。

その他

  • Triggs(1996)によるとコモンウォンバットでもフレーメンを観察できる。Graham Brownがコシアスコ国立公園で,Triggs本人が自宅で2回フレーメンを観察している。