こんにちは。中の人二号=ユウトです。
茶臼山動物園のスミレが亡くなり,妻と献花してきました。初めて見た本物のウォンバットでした。ありがとう。安らかに眠られますよう。
スミレを思い出しながら,黄色いウォンバット本 How to Scratch a Wombat を読んでいく連載『ウォンバットの撫で方』第7回を進めていきたいと思います。今回は第四章 "A Day in the Life of a Wombat" です。

ウォンバットの寝床

「ウォンバットの一日」というタイトルのチャプターですが,日中は寝て暮らす夜行性のウォンバットライフ。実は大半「ウォンバットがどう寝ているか」という話をしている章です。ふつう,穴ぐらにはいくつか部屋があり,乾いた砂や土,枯草やシダでベッドが作り付けてあって,温度や湿度が一定なので天候にかかわらず快適です。野生のウォンバットは日の出とともに穴ぐらへ戻ると,ベッドメーキングさながら,寝床の土をほじくって柔らかくしたり掘り直したりすることもあるようです。そこで心地よいポジションを見つけると,尻を地面につけてウトウトし始め,ゆっくり目が閉じて体温が下がっていきます。体勢が低くなってきて,ついに頭を地面に預けてフルフラットになるとおやすみモード。
そして,日本のウォンバットファンの皆さんにぜひ見ていただきたいのがこのイラスト。
ぐっすりウォンバット
五月山動物園でもそっくりのポーズで寝てると話題です。(ウォンバットてれびよりキャプチャ。もっと良いポーズが撮れればよかったのですが。)
フクくんの寝姿
これは個体特有の現象というわけではなく,熟睡している証拠なのだそう。 How to Scratch a Wombat では次のように説明されています。
After an hour or more, the wombat rolls over onto its back, with its legs up in the air―the back legs straight up, and the front legs bent a bit. When a wombat is in this position, it is very, very sound asleep. In fact, sometimes it's in such a deep sleep, it is impossible to wake! 一時間もすると,ウォンバットは寝返りを打って足を空中にもたげ,後足はピンと伸ばし前足は少し曲げたような姿勢になります。ウォンバットがこの姿勢のとき,とても,とてもぐっすり寝ています。実際,時には熟睡しすぎて起こせないほどなのです。(後段拙訳)
穴ぐらの中で天敵の心配もなく,腹を見せてリラックスしているということでしょうか。動物園のウォンバットでも同じようにリラックスできる環境というのは素敵だと思います。

くしゅんバット「スニーズィ」

ジャッキーさん宅のバスルームの裏に穴を掘って住んでいた「スニーズィ」は,花粉症でくしゃみばかりしている珍しいウォンバットでした。ある朝,まさに「熟睡ポーズ」でドアマットの上に寝ているスニーズィを見つけたジャッキーさん。足でつついて起こそうとするも起きません。かがんで確かめてみると,息をしていないではありませんか!
体も固く,心拍も感じられないことに気づいたジャッキーさんは悲鳴を上げます。くしゃみばかりしていたのは肺の病気だったのかも……その朝たまたま一緒に朝食を取ることになっていた獣医がやってきて,スニーズィをテーブルに乗せて調べてくれましたが,原因は分かりません。
悲しいですが仕方ありません。果樹園にお墓を掘って,スニーズィを穴の中へ寝かせました。……すると,スニーズィは起きて目をぱちくりさせ,自分の巣穴へ戻るといつものようにくしゃみを始めたのです! ウォンバットはこのように,獣医ですら判別できないほど深く眠ることがあるのだそうです。こうなると,大人二人がかりでテーブルに持ち上げようが起きない。スニーズィほど熟睡する例はさすがに稀なようですが,野生の動物がこんなに無防備に眠るというのは興味深い限りです。

穴ぐらと体温調節

ウォンバットにとって熱は命とりです。夏の暑い日は,10分間外気にさらされるだけで死に至ることもあります。冬場は日の光を浴びに出てくることもありますが,乾燥した空気に当たり続ければダニによる疥癬にかかり,目が見えなくなったり耳が聞こえなくなったり,はたまた死に至る場合も多いのです。ウォンバットの穴は寝床であるだけでなく,体温調節のための重要な仕組みなのです。
干ばつの時期や,牛・羊に牧草を食べつくされてしまったとき,太陽に当たる危険を冒して外に出てくるウォンバットがいます。残念ながらそういうウォンバットは,飢えか熱か疥癬で遅かれ早かれ命を落とすそうです。一方でジャッキーさんの住むアラルーアン渓谷のような谷間では,山肌に日光が遮られるため,夕方からウォンバットが安全に活動するのが見られます。
野生のウォンバットは夕方になると穴ぐらの入り口付近まで出てきてそこで再び居眠りをしますが,これはぐっすり寝ているのではなく,気温や光量や匂いを観察して機をうかがっているのだといいます。夕方から夜にかけ,お腹のすき具合に応じて穴から出かけ,草を食べ,腹を掻き,ふんを撒きます。これこそがウォンバットの大切な日課。夜行性動物の本当の「一日」は,これから始まるのです……。
さて次回は,第五章 "Wombats Essentials" へと読み進めます。それでは!