Gooday! 中の人二号=ユウトです。
可愛くて気になる黄色いウォンバット本 How to Scratch a Wombat を実際に読んでいく連載第5回は,第二章 "The History of Wombats" を読んでいきます。
祖先にあたるディプロトドン
十万年前のオーストラリア大陸は現在より湿潤で,大型のカンガルー,巨大なエキドナ,有袋類のライオンなどとともに,体長3メートル・高さ2メートルにもなるウォンバットの祖先「ディプロトドン」が闊歩していました。5~6万年前に人類がオーストラリア大陸に到達したことや,気候の変化などを契機に,これらの大型動物(メガフォーナ)は徐々に姿を消していきます。人類の食肉とされたり,食料となる植生が減少したりといったことが重なり,小型の近縁種のみが生き残っていったと考えられています。現在生き残っているのは皆さんご存知の通りNorthern hairy-nosed wombat(キタケバナウォンバット),Southern hairy-nosed wombat(ミナミケバナウォンバット),Common wombat(ヒメウォンバット/コモンウォンバット)の三種です。
ディプロトドンを画像検索すると,様々な想像図がヒットします。「数万年前のオーストラリアには2.5トンの巨大ウォンバットが歩き回っていた」という方向で考えてもよし。「古代生物ディプロトドンの生き残りが現代のオーストラリアで穴を掘って腹を掻いて草を食べている」と考えてもよし。現代と古代のどちら側から捉えても,生物進化のロマンを感じる……といったら大げさでしょうか。どちらも想像する分には可愛い(?)ですが,ジャッキーさんは「床下に住んでるのがモスボールでよかった。もし住み着いたのがディプロトドンだったら……」なんて書いてます。本当にお茶目な方です。
ウォンバットとヒトと
ジャッキーさんの本には,アボリジニの人々とウォンバットの関わりについても書かれています。どうやらウォンバットはおいしくないらしく,どうしても他の食糧が手に入らないときに仕方なくウォンバットを食べることもあっただろう,というのです。「カンガルーの肉やコアラの柔らかい毛皮が手に入るのに,どうしてわざわざ骨と筋ばかりの,毛羽立ったドアマットみたいなウォンバットを狩ろうとするでしょうか」とひどい言い様です。しかし逆に考えれば,もしウォンバットの肉が美味で毛皮が上質だったなら,彼らが既に絶滅していたかもしれないということでもありますね。
白人の入植者も最初の数年間ウォンバットの存在に気づきませんでした。夜行性で暗い色の毛に覆われたウォンバットが仮に夜間穴ぐらから出てきたとしても,入植当時の貴重な,従ってわずかな灯りに照らされて発見される機会などなかったのだろうとジャッキーさんは予測しています。その後,ブルーマウンテンズの探検隊が地元のアボリジニに教えてもらった whom-batt という名が定着していきます。
現代のウォンバット達は,牧畜(食料でウォンバットと競合したり穴ぐらを踏み固めたり)・駆除(違法ですが……)・自動車事故・山火事などの人間の活動の影響で減少し続けており,特にキタケバナは絶滅寸前です。ウォンバットの平均寿命は動物園で20年以上,アラルーアン周辺で14年程度,乾燥した地域ではたった5年程度だとジャッキーさんは報告しています。オーストラリアには交通事故に遭ったり「メンジ」と呼ばれる皮膚病*にかかったりしたウォンバットを保護し野生に返すための保護地が複数あり,それも善意で私的に運営されているものが多いようです。How to Scratch a
Wombat の連載の次には,それらのウォンバット・サンクチュアリについて調べてご報告できれば……と思ったりしています。
さてさて,次回は第三章 "What Is a Wombat?" と第四章 "A Day in the Life of a Wombat" を併せて読んでいく予定です。それでは!
*「メンジ」と呼ばれる皮膚病:これに近い種のダニが人間の皮膚に寄生して起こる病気が「疥癬(scabies)」です。動物に感染するものは sarcoptic mange と区別して呼ばれているようですが,日本語の正確な訳が分からなかったので,仮にカタカナのまま表記しました。この病気については,もう少し調べられたら別記事を書く予定です。訳語についてのご指摘をいただいた方にこの場を借りてお礼申し上げます。(平成30年3月5日追記)